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エディー・ジョーンズ氏と牟田監督が対談
2018/07/18
7月11日(水)、エディー・ジョーンズ氏(現イングランド代表ヘッドコーチ)のセミナーに先駆け、牟田監督との対談が実現しました。
「選手がすべて」と語るジョーンズ氏が、学生主体を貫く関学ラグビー部への期待を語るものでした。
エディー・ジョーンズは言った。
「ビジネスカードをくれないか? そのメールアドレスに映像を送るよ」
イングランド代表ヘッドコーチとはいえ、教え子には気安い。牟田至は白い名刺を両手で差し出す。関西学院の監督はサントリーの現役時代、エディーのコーチングを受けた。
映像はスーパーラグビーのハリケーンズ。
「この世界では2、3年ごとにトレンドが変わる。指導者はそれを予測しないといけない。これからの主流はアタッキング・ディフェンス。そのお手本になる」
流行予想は激しいタックルからの切り返し。守りが軸の関西学院にとって、さらに強みが増す予感はする。
2018年7月11日。エディーのセミナー「アンサンブルラグビー」の開演1時間前、牟田はこれからの方向性を示してもらう。
名刺の余白には、黒のボールペンで腕を三角巾でつった男がおもむろに描かれる。
「君のイメージはこうなんだよ」
エディーはいたずらっ子のように黒い目を輝かせる。牟田は苦笑いをする。
「現役の時は、ケガが多くて…。これは、肩鎖関節を痛めた時の絵ですね」
言葉には謙遜も含まれる。日本代表キャップ8を持ち、パワーが魅力の今泉清に競り勝ち、FBとして公式戦出場を果たした。「今泉に勝った男」として名をはせる。
オーストラリア人のエディーが、サントリーのコーチに就いたのは1997年。牟田の3年目だ。同年、ACTブランビーズ(現スーパーラグビーのブランビーズ、当時はスーパー12)のヘッドコーチに転出してからも、長期休暇には来日して指導を施した。
来年2019年には日本開催のW杯でイングランドを率いる。ナショナルチームのヘッドコーチは3か国目。W杯では、2003年に母国を準優勝させ、2015年には日本に南アフリカ戦を含む3勝を挙げさせた。
そのコーチングのノウハウは、牟田を通して、関西学院に流れ落ちる。
「まず、目標を明確にすること。このチームはどこを目指すのか。それを繰り返し言う」
終着点が設定されれば、個人の鍛錬やチーム方針も決まる。現在の部員数は女性スタッフも含め146人。部員間の温度差にも触れる。
「トップの40人はハードトレーニングも進んでやる。ミドルの50人はどっちつかず。ボトムの50人は楽しむことが目当てだ」
エディーは一体化を具体的に説明する。
「大切なのはトップとボトム。彼ら両方に満足感を持たせる。週末しかコーチができないのなら、どちらか1日はチーム全体で練習する。そして、ボトムの選手ほど、コミュニケーションをとらないといけない」
ボトムが「どうでもいいや」という悪い想念を持てば、チームは崩壊する。
「エディーさんはよくレギュラーではない選手たちに、声をかけていましたね」
牟田はうなずいた。
関西学院の創部は1928年(昭和3)。90周年を迎えたチームは、「学生主体」を貫く。
関東の対抗戦、リーグ戦、関西リーグのトップ24チームの中で、唯一フルタイムコーチを置いていない。牟田も平日はサントリー酒類に勤務する。
<一般的にはネガティブに受け止められていますが、私はそこに学生主体で運営できる価値があると信じます>
現状を今年6月に発刊された『90周年記念誌』の中で、伝統を前向きに捉えている。
昨今の学生ラグビーは寮生活を送り、フルタイムコーチに指導される管理が主になっている。関西学院は流れに逆行する。
<学生自身が受け身ではなく、自発的にラグビーに向き合い、自分たちより強い相手・組織にどうやって勝つか? 学生たちと一緒に考え、それを実践していく過程にこだわり、それをやり切った者だけがわかる境地を体験してほしい>
牟田は自身の思いを文章に託す。
新境地に至るのは難しい。エディーが最新のラグビーを授けても、牟田が意思疎通をはかっても、最後は146人の部員ひとりひとりが自分を律して、ラグビーに向き合わねば、そこには到達しえない。
全員が同じ方向を向いた時、関西制覇、それに連なる初の学生日本一が眼前に来る。
「いいチームだからって、いいコーチがいるわけじゃあない。選手がすべて。選手たちだけでいいチームになれるチャンスなんだよ」
エディーは励ましを送る。
主体性が大切なのは試合に勝つためだけではない。社会を生き抜く力になるからだ。
「140人の中で、トップリーグなどに行けるのは少数。でも、そこに入らなくても、チームの中で人としての振る舞いを覚え、人格形成に心を砕けば、会社で活躍できる。サントリーのOBたちのようにね」
講演会場には中村直人、田中澄憲、浅田朗、森岡恵二らの姿があった。牟田とともに社会人ラグビーを戦い、今ではビジネスやコーチングなどそれぞれの世界で奮闘する男たちが、平日の水曜日にも関わらず駆けつける。
ラグビーをレベルに関係なく個々が考え、行動する。それは、自律につながり、卒業後、人生の長い道のりを切り開く力になる。
エディーはプロとして、ラグビーに生活の糧を求めながらも、教員経験者らしく、金銭以外の効能も忘れてはいない。
大人の力は最小限にして、その上で「学生主体」で勝つことができれば格好いい。
たとえグラウンドで悔し涙にくれたとしても、周囲に流されることなく、自分の意志で、楕円球に食らいついて行った毎日が残るなら、その先には、別の成功が待ち構えている。
(文:鎮 勝也)
関連リンク
7月12日(木)エディー・ジョーンズ氏によるセミナー
牟田監督(左)とエディー・ジョーンズ氏(右)
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